「ヨーロッパを抜けたら中東でしょ。緊張する旅になるんだから、ここでゆっくり休んでいくといいわ」
メール交換をしていたとはいえつい3日前まで見ず知らずだった僕にMinakoさんはとても親切にしてくれる。
思えばL.A.を出発してから約2ヶ月。
無意識に緊張して疲れがたまっていたのかもしれない。
目覚まし時計をかけずに寝たら昼の12時まで熟睡してしまった。
ということで今日は昼間は外出せず、Minakoさんが持っているガイドブックとインターネットをフル活用して今後のルートを検討することにした。
今のところ僕が予約してある世界一周チケットではドイツのミュンヘンからトルコのイスタンブールに抜けることになっているのだが、地図を見れば見るほど再びドイツに戻るよりイタリアに行きたくなってきた。
ベネツィア、ミラノ、フィレンツェ…。
ユーレイルパスの枚数が残っていればモナコかニースあたりだって回れない距離じゃない。
問題はスターアライアンスの航空会社がイタリアからイスタンブール行きの便を出していないことだ。
それならいっそのこと列車と船でイタリアからギリシャ、トルコと移動するのはどうだろう。
う〜む、だんだん大胆になってきた(笑)。
レバノンのビザがよく分からないのだけれど、トルコからキプロス経由の船でイスラエルに入り、エジプトまではバスがありそうだ。
エジプトからケニアのナイロビまでは航空券を現地調達することになる。
この先の航空券もイスタンブール〜ドバイ〜バンコクという予約をしてあるのだが、ここでもトルコに戻ってくるのはもったいない。
アジアに向かう便さえあればいいんだよなぁ、と調べていたら、ナイロビと南アフリカのヨハネスブルクからシンガポール航空がシンガポール行きを出しているではないか。
これだ!(笑)
なんとアフリカ大陸縦断まで視野に入ってきた。
いったい日本にたどり着くのはいつになるんだろう?
「せっかくウィーンに来たんだから話の種にオペラを見てきたら?」
正直言ってオペラなんて僕には敷居が高くて別世界のものだと思っていたのだが、Minakoさんに背中を押されて見にいくことにした。
というわけでやって来ました国立オペラ座。
今日の演目は「トスカ」。
開演の2時間前だというのに当日券売場にはすでに行列ができていた。
僕が買ったチケットはガレリーという一番安い立ち見席。
お値段はなんとたった30シリング(約240円)だ。
開場と同時に階段を駆け登り客席に入る。
で、立ち見席のお客さんがまずするのはこれ。
手すりにハンカチやシャツを結びつけて自分の場所をキープするのだ。
僕も借りてきたハンカチで席を確保する。
そうすれば開演まで1時間ほど外に出て一服できるというわけだ。
ドレスやタキシードで正装している人がもっと多いと予想していたのにそれほどでもなく、Tシャツにジーンズの僕もあまり気後れしないで済む。
そしていよいよ開演。
歌詞はイタリア語でまったく意味が分からないが、Minakoさんに借りた本であらすじを読んでおいたので流れは理解できる。
それにしてもマイクなしでこの広い会場いっぱいに声を響かせるオペラ歌手はすごい。
そしてウィーンフィルオーケストラの演奏。
歌詞が分からないのに、いや分からないからこそなのかもしれないが、音楽だけで登場人物の気持ちが伝わってくるのだ。
感情を表現し、感情を増幅し、そして感情に訴える。
音楽の普遍性を実感させられる。
言葉、特に書き言葉は書き手と読み手が同じ記号から同じイメージを共有することを前提にしている伝達手段だ。
だからイメージを共有していない異国語の使用者同士はコミュニケーションができない。
だが、音楽は違う。
伝達精度の程度こそあれ、誰にでも送り手のイメージを伝えることができるのだ。
物書きの端くれとして、そして英語で苦労してきた留学生としてはこの音楽の普遍性がとてもうらやましくなる。
飽きたら途中で帰ることも考えていたのに、2回の休憩をはさんで最後までしっかり見てしまった。
出口へ向かう観客の顔はどれも満足げだ。
夜のオペラ座はライティングに浮かび上がってとてもきれいだった。
<今日の支出>(1S<シリング>=約8円)
オペラチケット 30S
荷物一時預かり 12S
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